ヒトの歯は、乳歯から永久歯に生え替わるだけで、永久歯が2度、3度と生え替わることはあ りません。しかし、失った永久歯が生え替わるのは、患者にとっても歯科医にとっても待望され
る事です。
今やips細胞からつくった網膜を人の眼に移植して視力を取り戻す時代です。そして40年前から 自家移植のための歯の銀行がつくられ、歯の培養研究も行われていたはずです。しかし、他家移
植どころか未だに歯の自家移植すら、腎臓の他家移植より困難なのか、と思われるほど世間に知 られていない気がします。
近10年の悪評にもかかわらず、インプラントの埋入本数は増加していると聞きます。それほど 可撤式補綴物(主に部分床義歯)は嫌われている、はたまた可撤式補綴物を作るのが下手になっ
たのか、議論はつきませんが、はっきり言える事は、抜かれた歯の後に次の歯が生えてくると良 いな、と思っていることです。かけがえのない臓器を失ったら、新しい臓器を入れ替えるという
概念は、素朴な願望です。歯を失ったら、別の歯を植え替える移植は、まさに臓器移植であって 、インプラントとは質的に違うものです。
3Mix-MP法を採用して、抜歯が減ったと実感していると思います。今では抜歯せざるを得ない 疾患は、重度の歯周病、外力による歯の破壊(脱臼、亀裂を含む歯根破折)、深い根面ウ蝕など
と限定されてきています。逆に、抜歯が稀なことになったが故に、その後の補綴物が以前より異 様にとらえられるようになったのかもしれません。
私達は、これまで自家移植に関する知見を得る度に、当学会や症例検討会で発表してきました。 今回は、それらの総括として、更に自家移植を成功するための勘どころを纏めて話したいと思っ
ています。私達が実施している歯の自家移植は、LSTR 3Mix-MP法を応用しています。 本法の「術式の特徴」は、内科的歯科治療と言えますが、具体的に項目をあげると以下のように
なります。
1)歯根膜の機械的損傷より、免疫学的異物化を避ける手技
2)術後の移植歯は、歯周病罹患歯と同じと捉える。
3)接合上皮の深行増殖の抑制を図る創傷管理
4)長期(5ヶ月前後)でリジッドな固定
5)起炎要素(壊死歯髄,細菌)の除去
6)術直後から移植歯に生理的咬合圧を負荷
更に移植術のタイムスケジュールを定めて、術後管理、メンテナンスをいつ頃、何を、何故行う のかを示し、10年以上の良好な経過を導いています。
LSTR 3Mix-MP法の応用例として本法を提案しています。多くの会員が取り入れて治療結果 を持ち寄れば、何をもって治療の成功とするか、必要な経過観察期間を何年とするか等を確立で
きると思います。その結果は、自家移植より難しい「再植」に反映されることと思います。移植 で言えば移植床がほぼ出来ている点で再植は、移植より有利ですが、生体と歯をつなぐ歯根膜の
状態が悪いので、移植より生着は難しいと言えます。再植症例で移植床を学び、移植症例で歯根 膜の取扱いを学び、異物化しつつある歯の生着をマスターすれば難症例の再植も成功すると考え
ています。
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