歯髄の回復力は想像以上に強い。
当医院はう蝕予防と床矯正に取り組んでいることもあり、外傷性歯冠・歯根破折で受診 する児童・生徒が多い。露髄を伴う歯冠破折の場合、従来法では、歯髄の上に薬剤を置
きセメントで蓋をする必要性から、浸麻を行い露髄面から数ミリの深さで断髄、止血の 後貼薬、その上にセメント充填、歯冠修復する方法が一般的だが、即抜髄を選択する歯科医院も決して少なくない。
幼弱(根未完成)永久歯の歯冠・歯根歯髄腔は、断面が太いため新たに断髄した歯髄面の止血処置は決して容易ではない。また、抜髄になると根未完成歯であれば、どこまで根管拡大し根充すればよいのか明確な基準はない。さらに根充良好でもその部分はすべて人工物で置き換えられるため歯の物理的強度は著しく低下し、将来的に垂直性歯冠
破折を招く可能性が高くなる。歯髄を少しでも残すことができれば、根尖はわずかでも 延伸し生物学的閉鎖(アペキソゲネーシス)が得られ、歯冠歯髄腔・歯根歯髄腔は修復象牙質の形成・添加により徐々に縮小、狭小化され、歯の強度は高くなり、歯根破折の
可能性は正常な歯と比べても遜色ないまでに低下することは言うまでもない。
当医院では、こうした症例に対して、3Mix-MP法の原則に則り最大限歯髄を残す処置を行っている。具体的には、@浸麻なし、A露髄面の止血(壊死層の形成)、B3Mix-MPに
よる無菌化、C破折片、紛失した場合は直接法CRインレーによる修復(密封)、D暫間固定 の順序で施術し良好な成果をあげている。
学生時代、歯髄は弱い組織で一旦細菌が感染すると負のスパイラルに陥り、いずれは 歯髄全体が壊死に至るものだと教えられた。しかし、3Mix-MP法に出会ってからは、無菌化により歯髄壊死は最小限に止めることが可能になり、残存歯髄に歯髄本来の機能を回復させることができるようになった。さらには、最近、歯根破折症例でやむなく歯髄を
取り除いた空間に再び歯髄が誘導された可能性が示唆される症例にも遭遇した。
正しい診断と3Mix-MP法による的確な処置がなされれば、歯髄の回復力は我々の想像以上に強いことを、歯冠・歯根破折症例を通してお示ししたい。
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