第20回LSTR療法学会 学術大会 2021年
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メインテーマ: 『修復から再生へ』

〔特別講演〕

『 3Mix-MP法に取り組んでいます 』

安藤 正明
アンデンタルクリニック 宮城県仙台市太白区

【はじめに】  
私が3Mix-MP法に深く関わるようになったのは, 病院勤務を退職した私が, 開業に向けて, 宅重先生にいろいろ助けていただいた頃からです. 3Mix-MP法は, 常に進化していますので, まだまだ勉強をしなければと思っていますが, 残された臨床人生も少なくなっています. 私から発信できるものは何もありませんが, 3Mix-MP法に関わって体験してきたこと, 症例検討会で学んだことを紹介して, 皆様の参考になることがあれば幸いです.

【臨床例】 (症例1)
患者:27歳 女性. 
初診:2005.10.15.
主訴:左下の奥歯が痛い.
現症:冷水痛+,自発痛-.
X線所見:#37の咬合面遠心寄りに深いカリエスあり(図1).
処置及び経過:2005.10.15.Save Pulp,
CRインレー直接法. 治療後に不快症状は無かったが, 帰宅後疼痛が出て, 結果, 苦情の電話が星野先生に入り, 宅重先生にまでご迷惑をおかけしました.
反省点:丁寧にしようとするあまりいじり過ぎ, 歯髄に刺激を与えてしまった. 出来るという変な自信. 患者に対して術後疼痛の説明不足. 術後不快症状に 対処できるようにする. 
図1
図2

『好結果を得るための必要十分条件』に則り治療ができているかの検証(図2).
象牙質・歯髄複合体を意識して, 極力歯髄方向に刺激を与えない.「いじらない, 削らない, 触らない」セミナーで講義を受けたことですが, いろいろ反省させられた症例です.

 

(症例2)

Skype症例報告  2011.8.25  
患者:74歳 女性.
主訴:#12 歯肉が腫れて, 痛くてご飯も噛めない.
現症:唇側歯肉の腫脹と発赤, 咬合痛, 咬合により動揺ある.
   歯肉部と歯牙に圧痛あり.
   歯肉は腫脹し, 排膿した痕のような小さな傷がある.
   限局した近心口蓋側部で6oでした.

X線所見:歯根膜がやや拡大. 歯根の近心側に吸収像. 根尖に病変はない.
診断名:辺縁性歯周組織炎.
処置及び経過:#12 2011.7.1 咬合調整,
ポケット洗浄, 義歯修理, 全体の咬合を整える. 歯肉の腫脹, 発赤は治まった.
動揺も治まった. 咬合痛も治まった. ポケットは4o程度. X線写真上では改善してないようだ(図3)



図3

この度, 私の提示した症例について, 宅重先生が歯根外形線検査の分析をしてくださいました.以下は, 以前講義をしていただいた歯根外形線検査の資料から転載しました(図4, 5).

図4

図5

 歯根外形線検査の分析より2007.11.8 に咬合性外傷の兆候が見られ, また, 経過を追うことができます. 2011.7.1 から2011.8.22 の間に#14 部の床破折 レスト脱離が起き, 臨床症状が治っても咬合調整, 義歯の調整が不十分だった ことが分かります(図6,7).
さらに, 2011.8.22 について分析と解説をしてくださいました(図8).

図6

図7

図8

 

以下は, 以前解説していただいた時の内容です. 
 患歯は咬合性の歯周組織の破壊, 側方から外傷性の咬合圧が加わっている.
安静を保つ=治療の原則・咬合調整が不十分, 安定が不十分(=義歯の床縁が あたっている).
・連結して固定する.
・咬合調整をする.
・義歯の床縁が接触しないようにする. もしくは、歯頚部で切って根面板の形に して側方力が全く加わらない様にし, 新しい安定した義歯を作製する.
どのような原因で歯周組織の破壊が起こっているのかを考えなければいけない.ということを考えさせられた症例です.
その場で, 宅重先生より次の資料が送られて, 解説を受けました(図9〜11).

 

図9
図10

図11

 

咬合性外傷, 歯周病の歯根外形線分析をしてくださいました(図12, 13)

図12
図13

 

(症例3)

患者:50歳 女性.
初診:2005.8.22.
主訴:上顎の前歯が腫れた.
現病歴:#11は投薬, 消炎. その後, TBI, スケーリング, SRPおよび#24-#27のPDを装着を行い現在に至る.
上顎 #17-#25,下顎 #47,#45-#35, #37
Br #47-#45, #35-#37.
処置及び経過:#45は歯肉の腫脹を繰り返していたため, 抜髄をした. Br除去時に#45が抜けたため, 便宜的再植を行った. 抜歯窩に3Mix-MP留置. #45, #44を暫間固定した. 再植後4年半頃暫間固定をやり直した. 再植後8年9ヶ月に歯根の吸収が確認された(図14).

 

図14

図15

診断の問題:#45は, ステージ1であれば, 細菌が無いので再三歯肉が腫れるのは矛盾する. この症例の診断はステージ2である. 咬合への対応は咬合調整と#44と#45をワイヤーではなくて輪状連結鉤の形で繋がなければいけない. 細菌への対応は歯周ポケットの清掃でポケットの中を奇麗にすること.
ステージ3でも, 異物化の除去, 固定して安定を保つ, 細菌のコントロールができれば, 助けられる(図15〜17).
抜髄の問題:歯髄はそれ程悪い状態ではなかった. ポケットが9oあったので3Mix-MPの内用法を考え, ポケットに作用させると考えると抜髄が必要であった.
再植の術式の問題:9年目で吸収を起こしているので, 再植としては成功していた. ここまで保ったということは3Mix-MPの効果があったということが言える. 再植術の時の異物化が原因ではなく, その後の問題で起こった. と説明を受けた.
歯周病のステージを考えさせられた症例です.

図16
図17

 

(症例4)

患者:66歳 男性.
初診:2007.1.26.
主訴:|D6F ブリッジ脱離.
現病歴:ブリッジは4年位前に大学で装着. 食事中に脱離.
現症:特に痛みはない.
処置及び経過: #46については, 診断:辺縁性歯周炎 #46 EPT + 冷水敏+ スケーリング. その後, 歯肉腫脹に伴い,
PPS, 投薬, 分岐部掻爬, NIET処置を行った(図18).
#46 の歯槽骨の破壊が起こっている(図19).
現象より, @自浄能力の低下で細菌感染.A挺出と歯肉退縮で根分岐部が上皮付着の外に出た. B歯周病型根分岐部病変の発生?進行. C炎症は, 歯根膜拡大を伴い進行し, 歯根膜細胞の死を招いた.
D急激に歯根膜細胞は死んでいった.
E死んだ歯根膜細胞は排除されず異物化=歯周病ステージ3 その後, 上行性歯髄炎を経て歯髄壊疽, 歯周歯内歯となった.と解説を受けた.
現症を分析し, 正しい診断ができれば, このような残念な結果にはならなかったと思います. 現在は, #46の近心根のみ保存されています.

図18

図19

 

(症例5)

患者:49歳 男性.
初診:2005.4.14.
主訴:#25のインレー脱離, 痛みなし. (#47特に訴えはなかった)
現病歴:#47, 未処置の状態. #17〜#27, #47〜#35 #37で左下はBrです.
現症:#47, 冷水敏がある程度で, 特に症状は無い.
診断:#47, う蝕症第2度.
処置及び経過:2005.4.14 Saveを行った.

2009.3.25 クリーニング, 咬合調整. #47, m1〜m2. 2012.11.1 自発痛が強くなり, 冷水痛も強くなったので麻酔下で髄室開口を行う. 近心根は生活歯髄で出血があったのでSaveを行い, 遠心根は失活歯髄であったのでNIETを行った.
2013.5.24 EPT, #47:56, m1(図20). 歯根外形線検査の分析より, 遠心根根尖付近で, 初診時に病的との診断がつきました(図21).
この症例は簡単なケースではなく, 『予後不良のC3急化pul』と診断する必要あり, 簡単なC2と思ったところが, 慎重さを欠いた. 『嫌気環境のカリエス』 初期の段階で, 『嫌気で、細菌がすでに侵入している』と診断ができていれば, Saveを一回で終わらないで, 2〜3回やるとか 『徹底した無菌化』を試みる必要があるし, この時点でCRインレーで経過が 良ければ, 3ヶ月くらいですぐにメタルインレーに換えるべきだった.
初期のSaveは成功している. その後CRインレーの耐久性に問題があり, 漏洩を起こした.と解説を受けた.
根尖が写っていないX線写真で, 簡単なC2と思ったこと. 生活反応があったので,半死半生を想定せず放置したこと. 反省させられた症例です.

図20

図21

 

(症例6)

患者:13歳 女性. 
初診:2013.2.25.
主訴:左下奥歯がズキズキして噛めない.
既往歴:特になし.
現病歴:#25, 中心結節の先端が無くなり象牙質が露出した状態.
現症:昨日の朝, 起きたら急に痛み出した. それまでは何事も無かった.
ズキズキと自発痛あり. 冷たい物, 熱いもので滲みることは無い.
頬側根尖部に圧痛がある. 動揺は1〜2度.
診断:急性根尖性歯周炎.
処置及び経過:2013.2.25 10:00頃来院. #35, 中心結節の先端が無くなり象牙質が露出. X線写真所見では, 根尖に透過像. 肉眼で露髄は確認できず.象牙質を削除してSave Pulpを行い, 鎮痛剤を処方. 18:00頃来院. ズキズキ痛む.
昼食後, 鎮痛剤を飲んだ. Fuji\を除去し, 象牙質を少し削除. この時露髄や浸出液は確認できず. EDTA, NaOClで処理し再度Save Pulpを行い, 咬合痛を 軽減するために咬合調整を行った.

2013.2.26 9:30頃来院. 激しくはないがズキズキ痛む. 前日は, 夕食後9時頃鎮痛剤を飲んだ. 夜中痛くて目が覚めたが, 朝まで我慢できた. 頬側根尖部に腫脹確認. 動揺2度, 無麻酔下で髄腔穿孔, 血膿に続いて血液, 浸出液が大量に出た.
浸出液が治るまで待ってNIETを行う. アスゾール処方. 夕方来院するように約束. 17:30頃来院. 痛みもなく, 浸出液も止まっていた.再度NIETを行う
(図22).

図22

 

2013.4.5 来院時, 自発痛, 咬合痛無し. 動揺無し. 頬側根尖部の圧痛無し. X線写真所見では, 根尖の透過像はさらに縮小した(図23).
中心結節の破折した症例を, どんな症例もみんな一緒だと考えるのは, あまりにも単純. 中心結節が破折して象牙質が露出して細菌が侵入し歯髄の破壊が速かった. 炎症の上り坂にあり, 内圧が上昇し, 炎症の波及が速い. 歯根膜まで炎症が波及 しているから, 動揺がある. 最初からSaveをやるのではなく, 内圧が上がって いるから, 可及的に内圧を下げる為の処置を行う. (=髄腔穿孔して)この処置を 初診時に行えば, 痛みは引いた.『炎症の4つのステージ』 (図24)のどのステージ にあるかを判断して, それに伴う処置をする. 内圧が上がりつつある, 炎症が上り坂の判断は, 動揺度でも判断できる. 歯髄が死ぬための炎症は色々あるが, その炎症はどのステージにあるかという判断で治療方針が決まる.何でもかんでもSaveではなく, 何でもかんでもNIETでもない. と解説を受けた.
炎症のステージを考えさせられた症例です.

図23

図24

(症例7)

患者:20歳 男性.
初診:2013.11.25.
主訴:上顎の前歯が折れている(折れかかっている).
既往歴:特になし.
現病歴:2日前に自転車で転んで歯を打撲した.
現症:21│1 に歯冠破折が見られる.顔面に打撲の傷がある. 顎骨骨折はない.
出血はほとんど無い. 1│の歯冠は歯頚部寄りの唇面から口蓋側歯肉縁下にかけて破折して露髄状態である. 2│1は露随していないように見えた(図25). 3歯とも冷水敏はあるが1│は弱い.
動揺は1〜2度.
EPT 2│:39, 1│:51,  │1:35
 正常感応領域 前歯:10-40, 小臼歯:20-50, 大臼歯:30-70
診断:打撲による歯冠破折および露随.
処置及び経過:2│1はSave Pulpを行い. 1│は, 破折部をスーパーボンドで接着後NIETを行った.
その後, 21│1の固定も兼ねてCRインレーで歯冠修復を行った(図26).

図25
図26

 

このままだと不安があるのでもっとしっかりした修復をするべきと考えたが,データをよく見ないで,
「こういうことが起こるかもしれないから、今のうちになんとかしようよ」 というのは『従来法の考え方』である.
 電気歯髄診断器のデータは, これだけの回数をやって, これだけ長期に渡って計測しているのだから信用できる(図27). 電気診の数値を見ても, デンタル写真を見ても, 歯肉の状態を見ても一時悪化した状態から, 改善している. 歯髄が生きているなら, このまま様子を見ましょう. =助ける治療の『3Mix-MP法の考え方』.
いくつかのデータを照らし合わせて矛盾するかどうかを見ていけば良い.一つのデータだけで決めつけない. と助言を受けた.
 外傷歯で歯髄が生き延びたと思われる症例ですが, データの捉え方を反省させられた症例です.

 

図27

(症例8)

患者:54歳 女性.
初診:2014.10.26.
主訴:噛むと痛い.
現症:#47 歯周ポケットは, 一部 6oの所がある. 上顎は#17, #15〜#23, #28
   #17〜#15はBr, #24〜#27はPD. 下顎は#47〜#43, #41〜#47 #42は先欠.
  右噛みが多く負担がかかった.
  処置及び経過:2015.2.10 #47再植2015.3.24 クリーニング.
  以降受診せず. 2017.12.11 再来院(図28).
2018年の学会で, 星野先生の破折歯症例を集める呼びかけに提出した症例で.
(星野先生の設問に答えたものです)
術式:口外法(抜歯して接着). 再植した歯の歯列での固定方法:輪状連結鉤固定.
治療成果:成功とは言えない. 固定後, 2年9ヶ月受診せず. 骨の修復は見られるが, 根尖部の吸収が始まっている.
破折歯研究室で破折に至る兆候を発見して早期に救えればと思います.

図28

 

(症例9)

患者:48歳 女性. 
初診:2009.2.27.
主訴:左上奥歯が動いて噛むと痛.
既往歴:アレルギー性鼻炎.
現病歴:| 1年前より噛むと痛くなり, 歯が動くようになった.
現症:咬合痛+, 動揺度2〜3, 歯周ポケット6o〜8o.
処置及び経過:以下に示します(図29,30).
自家歯牙移植で, 幸い結果が良かった症例です. 宅重先生に助言をいただき, どんな所が幸いしたのかを考察にまとめ, 2017年の学会に発表したものです. 
 本症例においては, 移植歯が感染したり, 歯根膜の乾燥などで組織の損傷が大きくなると“変化した自己”として免疫反応の対象となることに留意し, また, 宅重先生が提唱されている様に, 移植直後の歯は“重度の歯周病罹患歯”と捉え, 内科的歯科治療の概念に則り3Mix-MPを用いて感染に対処したこと,
輪状連結鉤で強固な固定を行ったこと, 咬合に注意したこと, プラークコントロールを行ったことが効果的だったと考える.

図29

図30

まとめ

 以上のように, 躓きながらも症例に取り組んできました. 症例検討会やセミナー, さらに学会で多くのことを学び, 少しずつ理解をし, 実践をし, 実感できるように なってきています. 基本に則り実践し, 今まで助けられなかったものが助けられるように少しずつなりました. セミナーでご教授いただいた, 歯周病のステージの何処にあるのか, 炎症のステージの何処に当てはまるかを少しずつ考えられるようになってはきましたが,現実は診断力がまだまだ足りず, 3Mix-MPに助けられているというのが現状です.
 私自身は星野先生と宅重先生が話されていた「医療は万人のために」そして 「良い医療は残る」という言葉に感銘し,深くは理解できていないままにお手伝いをさせて頂きました. 3Mix-MP法とはどういうものなのかという基本を, またどういうことができるのか, 「好結果を得るための必要十分条件」に則り基本術式を守り, 「何も足さない」「何も引かない」ということが上達するのに必須であることを伝えるお手伝いをしました.
 体外と体内, 組織修復など3Mix-MP法の基礎の知識を深めなければと思っています.反射咬合誘導法による咬合治療についてはまだまだ勉強しなければなりません. 歯根外形線検査が病態の診断や予後の判定に役に立つことを改めて学習しました. 広く多くの先生方と知識を共有して, 診断力を高め日常の臨床において, 的確な診断, 的確な処置をして患者の苦痛を瞬時に取り除けるような, 患者に優しい歯科治療が出来るようになれたらと思っています.
 余談:3Mix-MP法は患者にも歯科医にも優しい治療法です. 標準治療として正しく,もっと世の中に広がることを夢見ています.

謝辞
 歯根外形線検査の分析をしてくださいました宅重先生に, 御礼申し上げます.
また, 星野先生と宅重先生には, 私のようなガチガチのデンタルカーペンターを ここまでお導き下さいましたこと誠に感謝申し上げます.

【参考文献】
宅重豊彦:月刊 宅重豊彦 進化する3Mix-MP法.株式会社デンタルダイヤモンド社,東京,2008.
宅重豊彦,星野悦郎:LSTR(病巣無菌化組織修復)3Mix-MP療法.株式会社デンタルダイヤモンド社,東京,2021.

 
 
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