第20回LSTR療法学会 学術大会 2021年
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メインテーマ: 『修復から再生へ』

〔口頭発表〕

歯根縦裂歯の保存治療
完全分離型の症例

岸保 愛子
岸保歯科クリニック 広島県安芸郡

【はじめに】  
 完全分離型歯根縦裂歯の症例は、従来ならば、抜歯の適応となるが、LSTR療法学会では、再建再植術が提唱されている。ただ、手技がやや複雑で、また外科的処置も含むため、術者には、技術と経験が必要であり、患者には、一度抜歯をするという点で、少しハードルの高い治療法であると考えられる。
 今回、抜歯をしたくないという患者の強い希望があったため、完全分離型歯根縦裂歯を抜歯せず、3Mix-MP療法口内法にて治療を行い、良好な結果を得たので報告する。

【症例】

患者:60歳 女性
初診:2015年11月28日
主訴:右上小臼歯部付近の歯茎が腫れた。
   押さえると痛みがある。

図1 2015年11月28日のX-P
図2 2015年12月2日のX-P

 

検査結果:#15 根尖部、歯根側壁に歯根膜腔の拡大あり。遠心壁に歯槽骨破壊の兆候あり。歯頸部付近の状態は良好。
処置及び経過:2015年11月28日に、原因歯を#15と判断し、補綴物を除去し、歯根歯髄SAVE療法を行なった。4日後の2015年12月2日に来院された際、口蓋側に違和感があるとのことだったので、再度3Mix-MPを貼薬した。
初診時と4日後のX線写真と歯根外形線分析の結果を示す(図3)。どちらにも、炎症像は見られるが、4日後の方は短期間でかなりの改善が見られる。

図3 初診時と4日後の歯根外形線分析

初診から16日後の2015年12月14日には、症状が消失した為、3Mix-MPとフジナインGPエキストラにて、根管充填及び築造を行い、形成後、印象を行った。その後、初診から27日後の2015年12月24日にFMCを装着した。2015年12月14日のX線写真と歯根外形線分析の結果を示す(図4、図5)。根尖部と根近心部に炎症像は見られるが、臨床症状はなかった。

 

図4 2015年12月14日のX-P
図5 2015年12月14日の歯根外形線分析

 

それから約2年間症状なく経過していたが、2018年2月10日に、右上歯茎が1週間前 から腫れて来院された。#15の頬側に腫脹が見られ、頬側中央部歯周ポケットは5oで 出血もあった。歯根破折と根周病変の可能性がある為、まずは患歯の無菌化処置を 行うこととした。2018年2月10日のX線写真と歯根外形線分析の結果を示す(図6、図7)。 歯根外形線分析では、根尖部に炎症像が見られ、根遠心部の外形線もやや不明瞭だった。 その後、2018年2月15日には、根尖部の腫脹は軽減していた為、レジンコアの印象を 行った。この時点では、歯周ポケットの変化はなかった。

図6 2018年2月10日のX-P
図7 2018年2月10日の歯根外形線分析

 

2018年2月17日にレジンコアの合着を行った。その際、頬側中央部歯周ポケットは、 深いままだった為、微小亀裂への対応とし、クリアフィルニューボンドを用いて 口内法を行なった。2018年2月17日のX線写真と歯根外形線分析の結果を示す(図8、図9)。 根尖部の炎症像は悪化し、更に根遠心壁の1/4部の骨破壊も大きくなっている。

 

図8 2018年2月17日のX-P
図9 
2018年2月10日の歯根外形線分析

 

その後、2018年2月26日に臨床症状はなく、根尖部の腫脹も消失していた為、FMCの 印象を行った。2018年3月10日にFMCを装着し、3月13日には臨床症状なく良好に使用 できているとのことだった。微小亀裂の可能性を再度説明し、まずは2ヶ月の検診を 説明した。2018年3月10日のX線写真と歯根外形線分析の結果を示す(図10、図11)。 根尖部の炎症は改善が見られるが、根遠心部の炎症像には大きな改善は見られない。

 

図10 2018年3月10日のX-P
図11 
2018年3月10日の歯根外形線検査

 

その後、FMC装着から9ヶ月たった、2018年12月18日、#15がコアごと脱離したと来院 された。臨床症状はなかったが、#15は根が、頬口蓋方向に破折していた(図12)。 本来であれば、再建再植法を行う症例だが、患者の強い希望により、3Mix-MP療法口内法 を行った。

 

図12 2018年12月18日の口腔内写真

方法は、まず亀裂部にクリアフィルニューボンドを流し、その後、スーパーボンド 筆積みにて、根上部の亀裂部を補強し封鎖を行った。次に、スーパーボンドの部分を 避ける様に、根管壁に3Mix-MPを置き、今度は混和用スーパーボンドをスーパーボンド用 マイクロシリンジを使用し、根尖部から盛り上げるように封鎖、築造した後、形成し、 テンポラリークラウンを装着した。2018年12月18日のX線写真と歯根外形線分析の結果を 示す(図13、図14)。根尖部に炎症像が見られ、根遠心部に外形線不明瞭な部分が見られる。

図13 2018年12月18日のX-P
図14 
2018年12月18日の歯根外形線検査

 

その後、2018年12月26日、口内法の処置から8日後には、臨床症状はなく、根全周の 歯周ポケットは3oだった。テンポラリークラウンのまま、暫く経過観察を行うことと した。2019年1月26日、口内法の処置から38日後にも臨床症状なく経過していた。  2018年12月18日、2019年1月26日、2019年6月17日のX線写真を示す(図15)。炎症像は 見られるが、時間が経過するにつれ、改善傾向にあるように見受けられる。その後の X線写真を示す(図16)。2019年12月27日、2020年10月10日、2021年1月23日と経過する につれ、亀裂部の不透過性が上がっている様に見受けられる。つまり、根管壁の 石灰化と歯根膜の回復が見られる。

 

図15 2018年12月18日、 2019年1月26日、 2019年6月17日のX-P

 

図16 その後のX-P

 

2021年1月23日、口内法から2年1ヶ月後、初診から約5年後の歯根外形線分析の結果を 示す(図17)。根尖周囲の炎症像は改善しており、根遠心部に外形線不明瞭な部分も あるが、全体的には改善傾向にあると見受けられる。  現在、口内法の処置から約3年経過しているが、臨床症状なく経過し、日常生活でも 問題なく使用している。ただ、現在もテンポラリークラウンが入っており、両隣在歯と スーパーボンドで固定をしている。引き続き、定期的な検診と咬合調整を行い、経過を 見ていく予定である。

 

図17 2021年1月23日の歯根外形線分析

 

 

【考察】  

今回、患者の強い希望として、抜歯をしたくないということがあった為、 完全分離型歯根縦裂歯の治療を、3Mix-MP療法口内法で行ったが、根周組織の 回復、根管の再石灰化が確認できた。この様に、完全分離型歯根縦裂歯にも 関わらず、破折片が分離したまま、接着性セメントを流し、無菌化処置を行った だけで、根周組織の回復、根管の再石灰化を確認できた。これは、新たな 「完全分離型歯根縦裂歯の救済処置」の可能性を示唆している。 今後は、症例数を増やし、手技を確立し、再建再植術に代わる治療法の開発を 目指したい。

 

 
 
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