カリオロジーの進歩により、初期う蝕に対する「早期発見・早期治療」は、既に過去のものとなった。現在では「早期発見・長期観察(予防)」が日常臨床の場でも定着し、う蝕予防プログラムが適切に実施されれば、永久歯の前歯・小臼歯のカリエスフリーは当然のことで、う蝕の発生は、溝の深い大臼歯咬合面の小窩裂溝に限られるといっても過言ではない。しかしながら、予防や定期受診に意識の低いわが国では、予防プログラムに参加する子ども
の割合はまだまだ低く、プログラムから外れた子どもには、なお乳歯・永久歯を問わず進行したう蝕、歯髄疾患が多くみられるのも事実である。
こうした進行したう蝕、初期の歯髄疾患に対する治療は、いまだに早期治療と称して「早めの抜髄」が行われているのが実情であり、抜髄→根尖性歯周組織炎、ときに歯根破折と、それが歯の早期喪失へ繋がっていくことは周知の通りである。早期治療(早めの抜髄)の理由としては、以下のことが考えられる。
@ いずれ感染が歯髄におよび歯髄炎を起こすのではないかという不安
A 覆髄、断髄処置を行っても、術後の疼痛発生が心配
B 歯髄壊死・壊疽に陥った場合、抜髄に比較して予後成績が悪いので
避けたいという思い
C「歯髄は弱い組織である」との誤った認識
進行したう蝕や初期歯髄疾患に対する対処法としては、早期治療、換言すると「先走った治療」しか選択肢はないのだろうか?
う蝕病巣を無菌化し、軟化象牙質の再石灰化を誘導するLSTR療法の、進行したう蝕や初期歯髄疾患への応用が考えられ、これによりデメリットの大きい早期治療(早めの抜髄)を回避できるのではないかと思われる。
当医院では、多数歯のう蝕、歯髄疾患を有する患者を当医院の予防プログラムに乗せるまでの治療として、また予防プログラムからはずれやむなく進行したう蝕や歯髄炎が発生してしまったケースにLSTR療法を積極的に取り入、早期治療ではなく、逆にどちらかというと「後手後手の治療」で良好な臨床成績を上げている。
今回は、乳歯の進行したう蝕、歯髄疾患に対して3MixーMP法を応用した治療症例を供覧し、3Mixで変わった予防の概念について解説するが、これは、基本的に永久歯に対してもそのまま通用する考え方であると思っている。
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