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   第5回LSTR療法学会 2006年度学術大会 2006年9月17日

●特別講演要旨●
「歯髄反応を生物学的に考える」

新潟大学大学院医歯学総合研究科
硬組織形態学分野 教授     
大島勇人

 象牙質に囲まれた歯髄は外界とは根尖孔で交通するという一種の閉鎖空間に近い特殊な環境に置かれており、各種の外来刺激により炎症が惹起されると内圧の増加をきたしやすく、重篤な歯髄炎に移行しやすいという特徴がある。一方、歯髄は栄養や感覚だけでなく修復能力をもつ。歯が磨り減ったり、う蝕や治療で削れたりすると、歯髄内では局所的に象牙質が形成される。本講演では、 私たちが確立した窩洞形成や歯の再植・移植などの動物実験モデルの結果を基に、歯髄反応を生物学的に考えてみたい。

 窩洞形成や歯の再植・移植後の歯髄再生過程では、変性した象牙芽細胞に代わり、歯髄間葉細胞が象牙芽細胞に分化する。機械的刺激や低酸素状態により象牙芽細胞が死滅すると、マクロファージや好中球による変性細砲の除去が行われる。局所の掃除が終わると歯髄・象牙質界面にリンパ球に抗原を提示する能力のある抗原提示細胞が出現し、その細胞突起を象牙細管の中に深く侵入させ、新しく分化した象牙芽細胞が配列すると、その後歯髄・象牙質界面から姿を消す。抗原提示細胞は初期免疫応答に重要な役割を果たす細胞なので、この現象は象牙細管経由で侵入する可能性のある外来抗原を待ち構えるために集まるとも考えられるが、歯髄が治癒に向かわないと見られない。また、歯の再植
後の歯髄再生過程では、歯髄内に象牙質が形成される場合に加え歯髄が骨様組織に置換する場合があり、後者の治癒経過を辿る場合が多い。現在両者の治癒機転を規定するメカニズムは明らかになっていないが、局所に存在する細胞の分化能と再生の場が重要であると予想される。

 以上の様に、歯髄は高い免疫防御機能を有すると共に、骨様組織形成能を含めた多分化能をもつ可能性も考えられる。歯髄の特性の解明は治療法の選択にも影響を及ぼすと考えられ、局所の歯髄反応を生物学的見地から捉える必要があると言える。

 

●大島勇人教授略歴

学歴
1981年4月 新潟大学歯学部入学
1987年3月     同     卒業
1987年4月 新潟大学大学院歯学研究科入学
1991年3月     同          修了(歯学博士)
職歴
1991年4月 長谷川歯科(新潟市)就職
1992年11月     同        辞職
1992年12月 新潟大学助手歯学部(口腔解剖学第二講座)に採用(〜1996年 12月)
1997年1月  新潟大学講師歯学部(口腔解剖学第二講座)に昇任(〜1998年 3月)
1997年3月 文部省在外研究員(ヘルシンキ大学バイオテクノロジー学部) (〜1997年12月)
1998年4月 新潟大学助教授歯学部(口腔解剖学第二講座)に昇任(〜2001 年3月)
2001年4月 新潟大学助教授大学院医歯学総合研究科(口腔生命科学専攻摂食環境制御学講座顎顔面解剖学分野)に配置替え(〜2001年12月)新潟大学助教授歯学部に併任(〜2001年12月)
2002年1月 新潟大学教授大学院医歯学総合研究科(口腔生命科学専攻顎顔面再建学講座硬組織形態学分野)に昇任(〜2004年3月)
新潟大学教授歯学部に併任(〜2004年3年)
2004年4月 新潟大学教授教育研究院医歯学系に配置替え(〜現在に至る)
大学院医歯学総合研究科顎顔面再建学講座を主担当(〜2005年3月)、歯学部を担当
新潟大学歯学部口腔生命福祉学科長に併任(〜2009年3月)
2005年8月 新潟大学全学教育機構学務情報部門協力教員に併任(〜現在に至る)
学位
1991年3月 歯学博士(新潟大学)「Ultrastructural changes in odontoblasts and pulp capi11aries following cavity preparation in rat molars(ラット臼歯窩桐形成後の象牙芽細胞と歯髄毛細血管の
微細構造学的変化について)」
学会活動
新潟歯学会(評議員)、歯科基礎医学会(J0B誌編集委員、評議員)、日本解剖学会(評議員)、IADR(International Association for Dental Research)、JADR (国際歯科研究学会日本部会)、国際組織細胞学会、日本臨床分子形態学会、日本顕微鏡学会、日本歯科医学教育学会
その他の活動
歯科再生医療産学連携会議(事務局)、歯胚再生コンソーシアム(事務局)、歯の発生の会(世話人)
学会賞
1995年9月 第7回歯科基礎医学会賞受賞
主な研究分野
象牙質・歯髄複合体の発生と再生、歯髄の免疫防御機構、歯の幹細胞の探索

 

 

 

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