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Home > 学術大会・総会 > 第7回LSTR療法学会 >特別講演 「2級窩洞窩縁の処理」

   第7回LSTR療法学会 2008年度学術大会 2008年9月14日
特別講演

「2級窩洞窩縁の処理」

星野 悦郎先生
新潟大学大学院医歯学総合研究科
口腔環境・感染防御学分野 教授

話題提供
   「組織修復 (Repair)から再生 (Regeneration)へ」

「隣接面窩洞窩縁の処理」
 LSTR 3Mix-MP療法SavePulp療法で治療後数日後に見られる比較的多いトラブルの例として、 隣接面の充填症例がある。旧来の窩洞の分類では2級窩洞に相当する。
2級窩洞は臼歯部の咬合面と隣接面を含む窩洞となる。前歯部の3級窩洞、4級窩洞でも基本的に 隣接面窩洞であり同様の対策となるが、窩洞デザイン等、充填方法が多少異なるので後述する。
 根面う蝕の場合、歯髄処置、あるいは感染根管処置が必要な場合が多く、その点についても後述する。また、歯根面の楔状欠損、あるいは、頬側面や舌側面の5級窩洞に相当するものも、 基本的にその処置方法の思考方法は同じである。

<後方歯隣接面窩洞における直接法レジンインレー>
 単純なメタルインレー2級窩洞では、MO,DO,あるいはMODの窩洞となる。
しかしながら、前歯部の3,4級窩洞でも言えることであるが、3Mix-MP法で推奨する直接法による(口腔内で作製する)レジンインレーでは、咬合面に窩洞を広げる事は必須ではない。
隣接面にのみう窩がある場合、頬側面あるいは舌側面からインレー体を脱着出来るようであば、咬合面にまで窩洞を広げない。必要に応じて、頬面あるいは舌面に窩洞を広げ、頬面あるいは舌面に開いた窩洞にすると、レジンインレー体を脱着することが出来る。レジンインレーの特徴として辺縁漏洩が起きにくい事と共に、審美性が良いため、頬側面に窩洞を広げても目立たない。この様なものを2級窩洞と言うかどうかは明確ではなく、「隣接面う窩」とでも言うべきかもしれない。
 咬合面にまでう蝕が拡がっている場合も、咬合面窩底に大きなボックス型の維持形態を付与する必要が無く、咬合面の窩洞も最小限になるようにする。レジンインレーでは、その維持・接着は広く形成するエナメル質上の窩縁部に得る。隣接面から咬合面に掛けて比較的平面的な外開きのインレー体(窩縁部を除いたインレー本体)でよいが、メタルインレーの様な咬合面窩底のボックス型の維持形態に代わってエナメル質上の外開きの広い窩縁を形成する。
歯頸部近くの窩縁は、ナイフエッジ形態(隣接歯面を覆う)、シャンファー形態(比較的広い
象牙質の切削面を得る)等があるが、歯頸部窩縁の状況により選択する。

<隣接面窩洞充填での問題点>
 特別な問題点はないが、3Mix-MP法で用いるグラスアイオノマーセメント (GIC)、レジンとも、窩洞面の湿潤状態に弱い。接着力が落ちたり、象牙質面との密着性が落ちたりする。どの様な充填窩洞でも同様であるが、窩洞面を乾燥できないと予後が悪い。隣接面窩洞では、歯肉に近いため、出血血液や浸出液、また、唾液が窩洞に入りやすい。遠心窩洞では見えにくいと言う苦労もある。
 う窩が長期間放置されると、歯頸部歯肉が窩洞内に入り込み、あるいは覆い被さってくる。
窩縁部窩洞の形成が明示できなかったり、形成時に出血を来したりする。特に乳歯の隣接する歯の遠心・近心にう窩があると、歯肉の処置が問題となる。実は、適切な歯肉の事前処理を行った上での充填に留意しないと、この様な症例での予後成績は悪い。
 構造的な問題としては、象牙細管が平行に走っている、と言う現実がある。隣接面歯頸部の窩洞底面には、地面に土管が走るように象牙細管が水平に走っている。当然、上面が開放している象牙細管も混じる。ここの部分を埋め立てないと、歯根表面まで遺漏が残る可能性が高い。
切削した場合も同様で、表面をならしたつもりでも、内腔の大部分が隙間として残った象牙細管がその下部に残り、空間として歯根表面まで連結してトンネルを造る。窩縁が歯根上で、歯周ポケットがあるような場合、歯根表面のセメント質はすでに壊死して剥がれていたり、浮いている場合も多い。密封充填をしても、その下に構造的な遺漏が残る。窩縁部にエナメル質がしっかり残っている場合、この様な遺漏は特に大きな問題ではない。

「トラブルの原因を考える」
<隣接面歯頸部窩縁部に歯肉が。。。。>
<歯頸部窩縁部を明示できない>
 窩洞に歯肉が入り込んでいる、あるいは覆い被さってきている、と言う場合、窩洞を密閉充填できるかどうかが、3Mix-MP法の適応かどうかであり、密閉できそうもない場合には3Mix-MP法として処置しない。その他の方法でも処置は出来ないため、抜歯の適応となる場合もあるが、3Mix-MP法を用いて窩縁周辺の条件を密封充填が出来る状態にまず改善しておく、そして、その後、正規の3Mix-MP法での完全な治療を行う、と言う解決策がある。
 基本的な歯肉の処置・改善策は、歯肉の消炎となる。う窩がある場合、う窩縁での歯肉の上皮付着も繊維付着もないので、歯肉は浮いた状態でう窩の周辺に存在している。う窩に入り込んできているような歯肉は、腫脹しているものであり、その炎症を抑えてやれば緊縮し、う窩よりも歯槽部に近い位置、すなわち退縮して落ち着く。出血しやすい様な状況の歯肉でも同様で、歯肉炎の原因となっているう窩の鋭縁による刺激や嵌合食物による障害・炎症、唾液やう窩中の細菌の作用、等を遮断すると、う窩周辺の歯肉が改善するので、処置がし易い。
この際、3Mix-MPを窩洞に詰め、歯冠形態を保ち、歯肉の改善を待つ間、う蝕病巣部も無菌化しておくとその後の治癒が早い。すなわち、治療は2回以上にわたって行うこととなる
(う蝕治療2回法)。この方法の利点は、2回目の治療時には病巣が無菌化されているので、3Mix-MP+GIC+レジンインレーを装着するには浅い窩洞に、さらに窩洞を深く削ることなく
レジンインレーだけで充填することが出来る。

<歯肉から出血や浸出液が出ている> <歯肉炎があり、触ると出血しやすい>
 この様な症例では、上記の2回法が適している。

<歯肉が窩洞に被さっている> <触ったくらいでは出血しない>
 歯肉の排除を試みる。窩縁部の形成と、乾燥処置が可能であれば、治療可能となる。
ラバーダムによる病巣部の分離も有用であろう。
 歯肉の切除も適用される。出血が少なくその後の処置がやりやすい切除法が適しているが、それらには、レーザーメス、電気メスなどによる切除がある。
 深いポケットの慢性辺縁性の歯周炎がある場合、歯肉が硬く、2回法を採っても歯肉が退縮しない場合がある。根面う蝕の場合が多いが、この様な場合、歯肉は容易に排除(脇にどかす)することができる。窩洞の形成や充填処置に支障がなければ、必要なときに歯肉をどけて処置すればよい。勿論、必要なとき(3Mix-MP貼薬時、GICでの密封時、レジンインレーの装着の最終段階)に、窩洞と窩洞周辺、あるいは接着処置をした面の乾燥が出来ることが条件となる。

<歯頸部窩縁部にう蝕象牙質が拡がっている>
 窩縁は健全歯質が条件となる。すなわち脱灰歯質では多くの隙間があり、遺漏の原因となる。
しかし、窩縁にエナメル質があり、この上にレジンインレーの窩縁を設ける場合にはその密封閉鎖がえられるので、象牙質内のう蝕病巣はあまり大きな問題ではない。残存させるう蝕象牙質は充填物の内部に閉じこめられ、再石灰化が起こる。問題は、レジンインレーの窩縁がこのう蝕象牙質を覆いきれなかった場合で、充填をやり直すことになる。
<後方歯隣接面窩洞における直接法レジンインレー>で述べたように、窩縁形態に留意して再作製する。隣接面の歯頸部窩洞の窩縁としてエナメル質上に窩縁を求めることが出来る場合、歯根面を覆うようにナイフエッジでエナメル質窩縁を形成したレインインレーが有効であろう。
シャンファー形態で窩縁を作る場合、特に窩縁がセメント質になる場合、窩縁部のう蝕象牙質は取り除き、象牙質新鮮切削面を窩縁部に形成する必要がある。ここを切削する際に歯肉を傷つけると出血等、思わぬ「やりにくさ」が生じる。前述の、あらかじめの歯肉の処置、う蝕2回法が有効であるが、即日充填をしたい場合、歯肉を傷つけないような切削法を考える必要がある。
窩縁部を最初に削ることなく、細いバーを用い窩縁よりもやや内側を溝状に切削し健全象牙質層を得てから、土手上に残るう蝕象牙質を低速回転エンジンを用いて側方に向かって削去して窩洞を形成する方法、回転するバーではどうしても歯肉を傷つけてしまう場合、手用切削器具を利用したり、ラウンドバーを回転させずに手用切削器具のように用い、軟化象牙質を削る方法、等の工夫が必要となる。

<歯根部にう窩が拡がっている>
<窩縁部にはエナメル質がない>
<セメント質ははがれている>
 歯周ポケットに露出している歯のセメント質は壊死し、ぼろぼろになっていることも多い。
すでに歯周疾患治療の一環でセメント質層を含めて歯面の滑沢化・平滑化がなされている場合も多い。つまり、象牙質が歯根面に露出している場合である。この面の象牙細管の走行に相当する部分の歯髄に、反応性の修復象牙質が形成され、歯髄側から閉鎖されていることが多く、象牙細管そのものも2次的な石灰化物で充満されていることも有り、歯根表面の象牙細管は一部あるいは全部閉鎖されている事も多いが、う蝕の進行に伴い、また、頻繁な唾液pHの低下状況 (ある種の楔状欠損の出来やすい状況:周辺の歯垢が産生する酸により唾液が酸性状態となり、これが歯頸部に停留することにより歯根面の象牙質が脱灰されていく状態)などによって、象牙細管の石灰化物が溶かされ(周辺の正常の象牙質のアパタイトよりも不完全ものが多いため、本来の象牙質よりも溶けやすい)、象牙細管内が空洞になっている場合があり、この様な時が問題となる。
生活歯髄の場合、知覚の過敏や歯髄炎症状が、また、失活歯髄の場合、感染根管の原因ともなっている。
 歯周疾患が原因で抜歯された歯を用いて行った漏洩試験では、根面からの色素の侵入は見られず、上記のような懸念はそう必要ではないと思われた。しかし、症状が軽減せず、漏洩が原因と思われる症例を再治療する際には、以上述べてきた隣接面窩洞形成・充填での留意の他に予想される充填窩洞外の歯根面処置、例えば、レーザー照射による象牙細管の閉鎖、あるいは、(レジンセメント製品のセットに含まれる)エッチングプライマーを利用して、歯根表面を 塗布・処理して象牙細管を被覆・閉鎖しておく(一液性のエッチングプライマー+ボンディング剤の製品もある)等の処置が有効と思われる。将来的には、ここに線維結合(すなわちセメント質誘導)あるいは上皮付着(窩洞充填物との接合)の誘導処置の実現が期待される。

前歯部隣接面窩洞
<接触点を考慮した2級・3級窩洞の区別にそれほど重要ではない>
 レジンインレーを用いる場合の隣接面窩洞に一般的に言えることであるが、審美的にも問題は無いので、唇側、頬側面での充填でよい。どうしても窩洞内部にアンダーカットの生じる形態になりやすいが、窩洞開口部(エナメル質窩縁部を除いた恵那亜編める象牙質境部の窩洞口径)を出来るだけ小さく保つ(殆どの症例で削る必要がない)と、3Mix-MP貼薬とGICによる封鎖が出来るぐらいの深さ(1.5mm程度以上)があれば、一旦窩洞を2次GICで埋め立て、改めて外開きの円錐状のレジンインレー窩洞を形成すればよい。窩洞に深さがない場合、歯髄に近づかない方向に貼薬のための小窩を形成しそこに3Mix-MPを貼薬して象牙質に密着させ、同様に窩洞全体をGICで封をし、改めてレジンインレー窩洞を形成する。
 窩洞開口部が広く、インレー体を一体としては唇側・頬側あるいは舌側への取り出しが難しい場合、3Mix-MP+GIC閉鎖後、奥の方の窩洞開口部をまず、第一のレジンインレー充填で次に第2次レジンインレー充填が単純になるようデザインし、充填を行い、その上で、単純な形の第2次レジンインレー充填を行う。この場合、第一次レジンインレーの窩縁は第2次レジンインレーと接する部以外を形成し、広いエナメル質窩縁部を確保する。第2次レジンインレーも同様であるが、第1次レジンインレーの窩縁と1部重なるように、また、第1次レジンインレーの本体と接する部分では第1次レジンインレーの本体状に窩縁部の斜面を形成し、窩縁を得る。第1次レジンインレーを完成させてから第2次レジンインレーに進んでも良いし、第1次レジンインレー体の1次光重合(窩洞内でレジンに50%量の光を当てる)後、このレジンインレーを含めて残りの窩洞全体に分離剤(MPでよい)を塗布し、第2次レジンインレーを作製し、1次光重合後、双方を取り出し、2次重合(インレー体の裏面から残りの50%量の光を照射)し、定法により第1次、第2次レジンインレーをこの順で装着し、光重合後、窩縁の重なる部分を中心に調整・研磨する。
例えば、第1次レジンインレーを舌側から取りだし、第2次レジンインレーは唇側・頬側に取り
出す形での形成も出来るため、応用が広い。ただし、窩洞内が広い・深いが、窩洞開口部が大きく拡がっていない場合、窩洞内をGICで埋め立てることで、一つのレジンインレーで足りる。
第1次レジンインレーを第2次レジンインレーで覆ってしまうことも出来る。

 

 

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