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   第8回LSTR療法学会 2009年度学術大会 2009年9月20日

●教育講演要旨●
万事を尽くして・・・・・・「待つ」   

新潟大学  星野悦郎 先生
新潟大学大学院医歯学総合研究科
口腔環境・感染防御学分野 教授

 治療に万事を尽くす、というのは理想であるが、そう簡単なことではない。何をもって「万事」とするか、その基準が難しい。
 歯科治療、特に歯内治療では、「万事を尽くせたかどうか」が術者にも明確でないため、術後の経過に「一喜一憂」する事が多い。「万事を尽くす」という治療の内容の概念の理解は容易なことであるが、それが達成されているかどうかの客観的な評価が難しい。
 「万事を尽くせた」という確信がないと、治療後の症状の変化に右往左往させられることになり、「時間経過によって症状が治まってくるから、経過を観察する」、という「待つ」事ができない。
 歯の治療に関しての基本的な目標は、機能的、審美的回復であろう。その歯で異常なく噛める、なら、患者は満足感を得られる。
 「異常なく噛める」にも種々のレベルがあるが、ここではちょっと脇に置いておいて、う蝕治療、歯内治療に特化して、話しを進めたい。

<LSTR 3Mix-MP療法VS 従来法>
 既に本学会員には、う蝕や歯内病変の病因にかかわる口腔細菌について、「体内の細菌」、「体外の細菌」を区別して理解する意義(第3回LSTR療法学会教育講演)と「象牙細管に残存する細菌が問題であり、この除去には人工的な手段が必要であること」、そしてこのために、3Mix-MP療法が提唱されていることを示している。歯内治療に薬剤を用いることを躊躇する臨床歯科医もいるが、「医療従事者としての賢明な薬剤の使用」とこれによる「患者の利益」を(第4回のLSTR療法学会教育講演で)示した。
 近年の従来法での歯内治療では、原因細菌の除去よりもこれを密封する事に重点が置かれている。歯の内部に閉じ込められた細菌は、栄養供給を絶たれるためやがて死滅している、という概念に立ち、これと共に、密な根管充填により細菌の移動や病原作用を防ぐための臨床手技を発展させてきた。
 しかしながら、そのサイズがμmのレベルである細菌を、人工材料を用いて密閉するのは容易でなく、このレベルでの根管充填の緊密さの評価法が確立されていない。便宜的に根尖部周辺までの根充の程度をX線写真上で判断しているが、良好な根管充填の症例でも病変の再発する例は良くある。根尖孔や根管副枝孔など、歯根膜への開口部の密閉が重要視されるが、そう容易ではないため近年ではこの密封のために加圧法が推奨されるが、これに伴って根管充填材料の根尖孔外への遺漏や歯根の破折事故が増えている。
 また、術後の症状が残る場合、これが歯内に残存させたかもしれない細菌が原因かもしれないため(原因の特定がなされないため)、対処が確立されていない。何かの症状が残る場合、「回復」を待つ、というより、「多分治療が失敗しているから再治療する」という判断がなされやすい。基本的に「「万事を尽くした」という確信が持てないためであろう。
 幸い、3Mix-MP療法では、病巣無菌化を基本概念としており、「万事を尽く」手段が明確で、病巣の無菌化が確信できる。その手段は、薬効を保つための薬剤の保存法、調整法(いずれのLSTR療法学会年次総会でテーブルクリニックとして供覧)、病巣細菌に対する適切な貼薬法、また、薬剤の漏出を防ぎまた新らたに口腔細菌が病巣に侵入するのを防ぐ密閉法(LSTR療法学会年次総会でのテーブルクリニック、学会主催の研修会等で供覧・実習)を教授している。
 また、治療において歯質の新たな侵襲、傷害を最小限にしているため、上記の様な治療時の事故が起きにくい。この様な歯科治療自身における治療後の新たな症状の発現が殆ど無い。これらの原因を考慮しなくて済む(但し、後述するように、充填物の咬合状態については留意しなければならない)。治療後の新たに生じる症状に対する対処を、第5回のLSTR療法学会教育講演で示した。
 術直後に症状が消えない症例はそう少ない数ではない。病巣の修復には時間が掛かるからである。特に、う蝕が進み、う蝕が歯髄に波及している場合の冷水痛は、軟化象牙質が硬化し(その中の象牙細管が新しい石灰化物で満たされ)また、歯髄腔への穿孔部の象牙質橋の形成による閉鎖を待つ必要がある。患者からのクレーム(治した歯が染みる)に反応して、例えば、従来法での「抜髄」処置のため歯を削りはじめてはLSTR 3Mix療法を用いる意義が減少する。



<万事?>

 では、「直っている途中ですので、様子を見ましょう」「しばらく冷たいものが染みるかもしれないので、しばらく(多くは数日、再石灰化の必要な範囲が広い場合など、最長で1ヶ月程度)治療した部で冷たいものを食べないようにしましょう」と言った指示を出すための「万事を尽くした」確信はどの様に得ればよいか?
 原則的に、原法として示している臨床手技を守ることが最重要であることは言うまでもない。「言うは易く行うは難し」であろうが、3Mix-MP法で示している原法はそう難しいことではない。薬効を保つための薬剤の保存法、調整法は単にその方法を守ればよい。熟練した手技や経験を必要とするものではない。しかし、「薬効を失効させない」、「失効した薬剤を用いない」という重要課題に留意が必要である。
 貼薬法ではまた異なる留意が必要となる。その要点は、3Mix-MPを浸透させるべき象牙質や根充材などに密着させること、につきる。意外と盲点となっているが、特に少し柔らかく3Mix-MPを調整してしまうと、窩洞(貼薬窩洞を含む)内に貼薬する際、運搬材料(人によって用いるものが異なるかもしれないが、例えば、ガッタパーチャやレジン形成器、探針等)にくっついて離れにくく、窩洞壁に擦り付けて貼薬される場合がある。これでは、浸透させるべき病巣に連結している象牙細管に届かないばかりか、MPが分離材として作用するため、次のグラスアイオノマーセメントの象牙質への接着を阻害し密着性を損ねる。窩底側壁に触ることなくきちんと窩洞底部に貼薬し、薄く伸べ広げる必要がある。この操作も通常、容易に実施できるが、この目的に作られたキャリアーを用いるとより簡単であろう。
 問題なのは、窩洞の密閉で、この確認が、強く「待てる」確信となる。」窩底(貼薬窩洞を含む)に広げた3Mix-MPは、グラスアイオノマーセメント(1回法、あるいは多回回法での最終段階)あるいはキャビトン(多回法の最終段階以外、必要に応じて)で第一次の密閉を行うが、セメント填塞時に3Mix-MPを押し出してしまうことがある。これでは貼薬したことにならない。また、3Mix-MPが柔らか過ぎる場合、セメント填塞時にセメントと3Mix-MPが混ざり合い、セメントが黄色に着色している場合がある。
病巣への充分量の浸透が期待できない。適切な3Mix-MP調整法を知ることで解決できる。
 やや面倒で、熟練した歯科技術を必要とするのが「充填」であろう。知ってか知らずか、充填時に、細菌のサイズを考えての臨床操作が行われていない。また、充填物の咬合がそう適切でないとしても、摩耗によって機能的な咬合位が得られていた柔らかい成形充填物の時代の概念と教育がいまだになされていて、適切な充填物の咬合を決める訓練を受けていないのも大きな問題点であろう。
 充填は、前歯部では審美的回復、臼歯部では咬合機能の回復が主たる目的と理解されている。「体外の細菌」の侵入を防ぐバリアの役割はそう重要視されていない。しかし、3Mix-MP療法の概念を良く理解すれば、「バリア」の重要性、「細菌のサイズを考えた充填」が必要であることが明瞭であろう。この目的で、直接法によるレジンインレー(レジンセメントで接着装着)を3Mix-MP療法では推奨している。現時点で、辺縁遺漏の最も起こりにくい、密閉性に優れた手法と考えている。直接法によるレジンインレーは、現在の歯学教育では主流ではないため、この適切な充填のためには、適切な窩洞形態の設計、レジンインレー本体の作製、接着の方法等、研修が必要であるかもしれない。LSTR療法学会年次総会でのテーブルクリニック、学会主催の研修会等で供覧・実習されているので、修得に努めて頂きたい。多くの症例での適切な充填は、慣れればそう困難なものではない。しかし、問題は、2級窩洞の歯頸部窩縁の処置で、腫脹した歯肉の圧排や切除などの処理、出血の止血・浸出液の処理など、充填窩洞窩縁の形成を難しくしている要因を予め解決しておくことが重要となる。その場でのこれらの解決法もあるが、事前の処置を1回目とし、3Mix-MP療法の本体を2回目後の治療とするのも良い。また、う蝕象牙質を窩縁に露出させないことも重要なポイントである(第7回のLSTR療法学会教育講演でその対処の例を示した)。
 我々が提示している治療例の臨床成績評価でも、治療失敗と評価される症例がある。この失敗の原因を探ると、多くは、この2級窩洞の密閉の不十分があり、手技の改良が行われ、再充填を行うことで成功率が高まっている。
 患者にも感知できないほどの充填物の咬合の回復状態、ごくわずかな咬合のバランスを欠いた充填によって、時間経過によって重篤な臨床症状を呈する事が最近、分かってきた。これらの例では、既存の充填物を含む、わずかな量の削去による咬合の調整により、臨床症状が急速に消退している。3Mix-MP療法では、現在、「Bio-feedback法」として、咬合筋が最も休息している状態での咬合位置を目標として左右のバランスのとれた咬合になるよう調整する方法がとられている。詳細については、第5回、第6回のLSTR療法学会テーブルクリニックを参照下さい。
 人工充填物で完全に密閉することは無理である、というのが私の見解で、それは、異なる材料、あるいは同じ材料の2個以上を組み合わせて填塞する以上、その間に隙間ができざるを得ない。分子量の小さい物質ほど侵入・通過しやすい事になり、細菌のレベルの大きさも隙間もできやすい。これらの隙間は、相互に結合し、通路となる。その構造が迷路構造となっているため、細菌(あるいは免疫を引き起こす成分を含む細菌菌体)等がそう容易に遠隔地まで移動せず、病原性も発揮する機会もない可能性もあるが、時間経過によって通過していく細菌等もある。3Mix-MP法では、この様な時間稼ぎの間に、新生象牙質や新生セメント質(場合によっては新生骨様石灰化)で病巣の閉鎖を誘導することによって、病巣の密閉を完成させる。これらのヒト生体成分による密閉は、連続的であり、障害があっても再度の再生も期待される。
 このため、充填物の「永久的」な密閉を期待せず(したがって、「永久充填」「最終充填」などの用語は誤解を避けるため使用しない.勿論、密閉性の悪い材料を用いて便宜的な封鎖の概念である「仮封」の概念は、3Mix-MP療法ではない。常に最良の密閉を心掛ける)経年的に、窩縁のチェックを行い、遺漏が見られる場合、充填(あるいは窩縁部の)をやり直す。窩縁の遺漏のチェックには、窩縁に色素液(例えば、ヨード液、ちょっと色が見にくい;食紅液、あるいは食紅をMPで溶いたもの)をおき、窩縁内部に色素が浸透するかどうかを見ると良い。一部の軽微な遺漏には、コーティング剤の利用も効果がある(第7回のLSTR療法学会教育講演)。


<治療後に残る、あるいは新たに見られた症状への対処>

 以上のように、「万事を尽くす」事により、治療前から見られていた症状について、その回復、病巣の修復を「待つ」事ができる条件を示した。第5感や6感を用いての判断ではなく、誰にでも「万事を尽くせた」かどうか、判断できる。  一方、治療後に新たに生じた症状は、実施した3Mix-MP療法の何処かがおかしい、つまり「万事を尽くせていない」事を意味している。改めて原法を遵守し、同じ、あるいは同様の3Mix-MP治療を行うと治療は成功する。
 その症例でも、最初から最後まで、3Mix-MP療法の原法に留意して実施する事で、自身の臨床成果を高めることができるであろう。個人個人の臨床手法の改善・修飾も貴重であるが、成書に示されている3Mix-MP療法の臨床成果に達するまでは、まずは原法を遵守頂きたい。


<待つ?>

 最近の歯内治療の研究のトピックスに、「歯髄の再生」があり、関連する報告が、Journal of EndodonticsやInternational Journal of Endodontics等に見られている。この場合、歯髄腔の無菌状態の保持が重要で、この様な報告ではtri-antibioticsとかtriple antibiotics paste等とも記述されているが、いずれも3Mix-MP療法の応用である。無菌状態での生体組織の修復能は計り知れないほど可能性を持っている。

 

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